アラスカで発見された?
天然のビクトリア・ストン
飯盛里安
 軟玉のあのきれいな石肌に、ときとしてうっすらと微細な繊維結晶相のみえるものもあることは昔からわかっていた。それもそのはずで、もともと軟玉すなわちネフライトといわれるヒスイは単一な鉱物ではなく、学者の説によると透角閃石と陽起石との集合体で、ときによると、さらにリヒテライトという含マンガン角閃石を含むこともあるといわれる。

 軟玉のうちでもこの陽起石をたくさん含んでいるものが、しばしばこのような繊維相をあらわし、リヒテライト分が多いと紫ヒスイなるとのことである。ヒスイの強靭な性質は、このようないずれも単斜晶系に属する角閃石群が相寄って、緻密な晶溶体をつくっているからだと説明される。

  ところで、軟玉はだいたいソ連のカザークスタン、シベリア、新疆のコンロン地域や、台湾、あるいはアメリカ合衆国の各地、ニュージーランド、アラスカなどに産するとのことだが、最近そのアラスカで、きらびやかな変彩性を有するものが発見され、これこそ世界で唯一の稀産ヒスイとして注目をあびた。しかもそれでつくった丸玉ネックレスが二千五百弗(九〇万円)と評価されている。(註参照)

  このヒスイの産地というのは、西アラスカも北極圏地域の辺境で、ここが偶然未開発の油田地帯でもあり、また近年銅鉱踏査のために訪れる人がたえずあるので、毎週数回往復する飛行機でいくことができるとのことである。しかも、上記のような特殊な軟玉を発見したのは、過去三〇年もの間、この地域で地方航空会社の操縦士をしていたウイリアム・ムンツという人で、現在ではこの産地のダール平原の片隅に原石の処理小屋を建て、もっぱらヒスイ採集事業をやっているとのことである。

  ここでは、このヒスイ原石はその平原地帯を流れるコバック川の周辺や河床に、だいたい数キログラムから数十キログラム内外の、比較的小さな漂石塊として転がっているのを採集するのである。このような漂石の根源は、さらに北極圏の北側を東西三〇マイルにわたってのびる、広大なブルックス山脈の一部を構成する蛇紋岩脈に由来するといわれている。

  そこで問題の変彩性ヒスイというのは、この情報をのせた業界誌(註参照)にでている、前述ネックレスの写真を一見してもわかるとおり、おそらく天然に存在するビクトリア・ストンにまちがいないと推定される。というのは、本来このビクトリア・ストンはネフライトとほとんど同じ化学組成に作られており、世間では合成陽起石であるとされていたが、上記の報道によって、思いがけなくもその正体がばれてしまったわけである。そして、これは天然のものが発見される以前に人工的に造られていたというむしろおもしろいケースといえよう。

  もともとこの石ができたのは、ヒスイのあの幽玄な翠緑色と半透明性は、宝石として無類の神秘性を発揮するがさらにこれに特殊な光輝が加わったらどうだろう、またヒスイでは緑と紫との二色しかないが、その他の色のものがあったらどうだろうというようなところからうまれたものである。

  この人工のネフライトつまりビクトリア・ストンの、今回発見されたものにまさって異なる点は、いろいろな鮮やかな色や、くすんだ地味な色調のものなど自由にえられることで、宝石としてヒスイ同様に各種の彫刻品としても妙味を発揮する。
 附図の写真は二、三の製品例であるが、丸玉ネックレスはアラスカ産軟玉ヒスイのものとほとんど同じ外観で、丸玉の大部分はいずれもキャッツアイのような光輝のバンドでとりまかれている。

 またこの石の絹糸状光沢は、軟玉組成質としての陽起石分の過剰によって晶癖が繊維状になっているためだが一般にこのような繊維結晶構造の石は、カットの仕方でかんたんに猫目石になるので、金緑石と同じ帯緑褐色のビクトリア・ストンからつくったものは、人工キャッツアイとして大いにすぐれたものといえるだろう。

 このように、ビクトリア・ストンは、ヒスイの特性をいろいろの面で拡充し、その優越性を一段と増進させた点で特徴があるのだが、宝石の魅力とは何であるかが根本なので、 もっとこの問題が考慮されたあとに、いつの日か理想的宝石というものが出現することになるだろう。
(註)ラピダリー・ジャーナル第23巻第1号(1969年4月号)50〜55ページ参照
上図の左はアラスカ産出の変彩性軟玉ヒスイ (shatoyant nephrite) 製のネックレス。右が金緑色ビクトリア・ストン製のネックレス